短編音楽小説#65 Hania Rani – Glass
そのピアノの音色を聴いたのは、偶然立ち寄ったレコード店でのことだった。東欧の山を思わせる澄んだ響きは、まるで画家が光で描いた絵画の中の草原に誘われたようだった。
何年も追い求める。そう。その音には長年の練熟が感じられた。澄んだ音。ピアノを知り尽くし、自分を知っている。その裏側まで。
みえない世界から語りかけることができる稀有な音。
私は泣きそうだった。私には手が届かない美しいピアノの音。
その音を手にいれることができない。
演奏者の練習に費やした長い時間が、一音一音に滲んでいた。私はその音色に圧倒され、思わず息を呑んだ。
ピアノを前にした私は、自分の未熟さを思い知った。しかし、同時に新たな決意も芽生えていた。 私にも今この瞬間から、自分を磨き、誰かの心に響く作品を目指すのだ。
美しい音楽のように、美しい物語を紡ぐために。