abejunichi@icloud.com

短編音楽小説#64 Bjork – Hyperballad

僕は朝早くに起きて、君が眠っている間、野山をかけめぐる。その間だけ、僕は君のことを忘れる。僕は自然のものとなって、朝の光を浴びている。昨日の僕は消えてしまって新しく生まれてくる。僕は昨日の僕にさよならを言って新しい僕になる。そして入れ替わった僕が、君におはようと言う。

君は気づかない。僕はいつも古いジーパンを脱ぐみたいに脱皮しているのだ。僕は僕を脱ぎ捨て、毎日新しい自分になっている。

でも、だんだん古い自分が自分の中に残るようになった。何もかもを捨て去ることはできない。そして毎日、新鮮に君のことを真新しく愛することも。

だんだん僕は僕ではなくなってしまうかもしれないと思っていた。だからハイパーバラッドを歌って、君のことを思った。山の頂上で君とふたりで暮らせたらどれだけいいだろう。そして僕は僕のまま、僕の中の古い部分を高い崖から捨てるのだ。

君はいつも美しい。眠っている時はいつも。

君は世界中の人たちの苦しみを受け止め続けている。彼らの話にすみずみまで耳を傾け、心に同調する。だから眠る前にはくたくたになって、ぐっすり朝まで眠る。

その眠りは強大で、僕の立ち入る隙はない。だから僕は僕で君が眠っている間に野山を駆け巡る。

だんだん僕は過去の僕と話をするようになった。過去の僕は変わった奴だったが、それでも彼のことを許そうと思った。そしてハイパーバラッドを歌って、いつか彼もその高い山の上で暮らせればいいと思った。

過去の僕たちと、君と、新しい僕は3人だけれど、ふたりで永遠に愛しあう。

今日の僕は明日には新しい僕になってしまうけれど、それでも君を愛し続けるよ。

Back