短編音楽小説#61 “Helios” haruka nakamura feat.LUCA
長い冬のことを思うと、僕の心は痛んだ。様々な生き物がこの長い冬を越えられず死んでいったと思うからだ。
僕は冬の間じゅう何かを書いて過ごした。妻が時々コーヒーをいれてくれた。温かかった。
それ以外は雪に囲まれて暮らし、どこへも行かなかった。僕は想像の旅をしていた。
想像の旅路。それはどこかでは現実と繋がっていて、心を変化させる。
物語はこうだ。生まれてきたことを呪う少年がいる。
彼は旅をして、真実に気づく。世界は自分が呪おうが、祝おうが、変わらない。
びくともしない壁のようにそこにある。
だから少年は、壁を殴り続けた。手は血まみれになった。
次には武器を探して切りつけた。
呼吸をする回数よりもはやく切り続けた。
そしてそこには長い時間の後、いつしか傷が生まれた。
壁も傷つくのだ。
少年はそのことを理解し、壁もいつかは崩れるということを理解した。
この世界は父や母が生まれてそしてその一部となり、守ってきた世界だ。
そして少年が生まれた。
でも、少年は世界を憎んでいる。
この憎しみはいったいどこから生まれているのだろう?
憎しみ。憎しみが壁を生み出し、世界と世界の間を人と人の間をわけたのかもしれない。
そして殴り続けていたのは、自分自身かもしれないのだ。
少年は壁を殴ることを、切りつけることをやめた。
そして壁の前で祈るようになった。
いつか壁が崩れさり、世界が変わるのだとしても、その時に笑っていられるように。
この話を書いていて、まるで誰かのようだと僕は思った。
冬の間じゅう書いて、僕はその原稿を焚き火をして焼いた。
大昔にレコードを焼いたことがあったが、何かを焼いた後では、それは変化を遂げる。
その原稿は焼いた方がいいと思った。そしてその後に、春のようにやってくるものを望んだ。