短編音楽小説#52 Shallou – Glimmer
夜の海辺には若者たちが集まっていた。秋なのに陽が夏のように輝いた後に、花火が打ち上がっていたのだ。あるものは車で、あるものはバイクで海辺に集い、これからはじまる夜の宴を楽しんでいる。波音は静かで、恋人たちが海辺に等間隔に並んでいる。浜辺でライトが光る。それは地上の星のように揺らめいている。
かつて若かった頃、自分が目の前の若者たちのように夜の海まで仲間たちと出かけたことを思い出す。海辺で語り合い、酒を飲んだ。永遠のように思えた時間。
星々が輝いていさえすれば、この世の楽園のような場所。
仲間たちと離れて、地元に帰ってきた時、ひとりぼっちで海辺に出かけた。なぜ孤独になってしまったのかわからなかった。自分の中から輝きが消えて、真っ暗な世界に転げ落ちてしまったみたいだった。でも本当は雲の向こうには星が輝いていることを忘れていたのだ。
孤独だった日々は消え去って、今は妻と海辺を歩く。
夜、海辺を歩くなんて久しぶりだった。浜辺にはカフェが出来て、遅くまで営業している。そこで海をみながらフラペチーノを飲む。店内のライトが反射して、自分たちの姿が映っている。
その向こうにはかつての自分たちがいるようだった。
穏やかな気分だ。若者たちが集う海をみて思う。
深い闇を抜け出して、星々の輝きを思い出した頃、妻に出会った。そしてひとりではないことの素晴らしさを思い出した。
人と人は見えないもので繋がっている。見えないもの。気づかないもの。ちょっとした会話。みえない糸で繋がっている世界を忘れていたのだ。
ひとり言葉の世界にいた時、星と星すら惹かれあうことを忘れて、孤独だった。
その時は自分が何かを間違えていたのだ。
闇から妻が引っ張りあげてくれた。そしてひとりではなくなった。
美しい音楽を聴きながら、かつての仲間に連絡をとる。
多くの時間が過ぎさった。でも、心は晴れて、そして星々が輝きだす。