短編音楽小説#18 Thom Yorke – Bloom
ひどい嵐だった。
風は家を揺らし、雨は天井を侵食した。嵐が過ぎても、まだ雨は降り続いていた。家の柱はみしみしと音を立て続けていた。子どもたちは泣き続けていた。妻は子どもたちを抱きしめ、暖め続けていた。嵐が過ぎた後に、せめて天気が晴れてくれればよかった。でもそううまくいかない。この世界は物語のようにはすすんでいかない。それでもまだ家はその場所にあった。
男はしばらく黙っていた。嵐の後で家のいたるところが悲鳴をあげていた。そのひとつひとつの場所をみてまわり、次にどうすべきか男は考えた。すくなくとも嵐の中にいるわけではない。そう思う。そしてこれは何度となく繰り返されていることだ。
何度も嵐はやってくる。幾度も風は吹く。悪いことと良いことが繰り返されている。
男は黙ったまま家の補修にとりかかる。少しでも元のように暮らせるように。でも少しずつ家が痛んでいることが、わかっている。次の嵐も大丈夫だろう。そしてその次も。でも途方もしないハリケーンがやってきたら?
男は黙々と作業を続ける。子どもたちと妻が眠ったその後も。
運命はわからない。でも悪い時の後には、すこしばかりはましな日が訪れる。男はそう呪文のようにつぶやく。そして歌を歌う。いつかどこかで聴いた歌を。
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人生には良い時と悪い時がある。これは僕自身も何度も思っていることだ。そしてあまりにも傷ついていると、今まで僕を救ってくれた歌までも心に響かなくなる時がある。そういうことが過去に何度かあった。
でもしばらくすると、音楽はまた響き始めた。そして自分自身が思っていたよりは年をとっていないことを確認した。心は少年のように様々なものに反応し、物語が動き始めた。
嵐が起きれば、そのあまりの無慈悲な力に立ち尽くすしかないこともある。でもまた晴れ間がくれば、音楽はそっとその傷跡を癒し、そして新しい息吹を運んでくる。僕が信じることができることは、悪い時はいつかは終わり、また新しい音楽が響くということだ。
彼が年をとるように、僕も年をとる。彼が歌うように、僕は物語を語る。あるいは邪悪な物語かもしれない。でもどこかに希望があると信じて。