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短編音楽小説#46 Belle「歌よ」

 歌が導いてくれる。ふだんは思っていることを話せない。でも好きな歌を歌っている時は、楽になった。歌っている時、わたしは心の奥から話していた。何もかもを。

そのうち、わたしは詩を書きはじめた。書きはじめるのは、いつも真夜中だ。いつか誰か愛する人ができて、でも何も言えない時に歌えるように詩を書いた。まだその日は来ていないけれど、その日を待っている。

毎朝、何か新しいことが起こることを期待して目を覚ます。でも、何も変わらない。毎日が同じパターンで繰り返される。

運命的な出来事が訪れて、わたしを新たな場所へ連れて行ってほしいと思う。それは子供の頃に夢見たおとぎ話みたいなもの。そういう想像にも飽きると、わたしはイヤフォンをつけて音楽を聴く。

ディズニー映画のように、みんなが歌い始めて、心を通わせる瞬間を想像する。そしてその中からひとり、わたしだけの特別な歌を見つける。それがわたしの運命になる。 わたしは音楽に身を任せ、夏の夜にその響きを広げる。ただ、今のところそれはただの歌に過ぎない。 歌が未来へ連れていってくれる。そういう夏の前、真夜中に静かに歌う。

その歌には人生の意味が込められていて、誰かがそれを理解してくれるだろう。 きっと誰もが心の中で何かを歌っている。真夜中に歌うのは、わたしだけではない。 歌が空間を満たし、静かな夜に響きわたる。

そして夢の中では、わたしは歌そのものになっている。

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