短編音楽小説#41 haruka nakamura – Lamp feat.Nujabes
彼は父の死後、ひと通りの葬儀などが終わった後で海に行った。子どもの頃、真夜中の3時に起こされて、よくサーフィンに行った。ある時期から、彼は朝の3時に起きて、煙草を吸いながら音楽を聴いた。そして仕事ではなく、父とサーフィンに行ったように海へ行って波の様子を眺めた。人生は苦しいこともあったが、父とサーフィンに行く小学生は特別だった。それは特別なことだとどこかで思っていた。
25歳になって、彼は自分のこの先の人生について考えた。父親から受け継いだもの。それは自分の中に沢山あるような気がした。
父は煙草を吸いながら海へ行く車の中でいろんな話をしてくれた。そのひと言ひと言が今も思い返されて、その時には煙草が吸いたくなった。
いつか父のことを完全に忘れてしまうかもしれない。真夜中の3時にアラームもかけずに目が覚めると、煙草を吸う。美しく静かなプレイリストを聴く。そしてその日が休みなら、車で夜明けの海へ行く。でももうサーフボードは手放していた。
子どもの頃、幸福だっただろうか? 客観的にはわからない。でも父との繋がりは確かにあった。そして今も午前3時に目覚める。まだ夜明け前だ。
酒を飲みにいくと女たちが寄ってきた。彼の美貌は女たちを引き寄せた。もし誰かと深い関係になったとしても、それだけでは彼の心は満たされなかった。ただ誰かを通過していくだけのような気がしていた。そして午前3時にひとり目覚める。
鳥のようにずっと飛び続けることはできないと思っていた。鳥もどこかでは深い森の樹々に降りたち、眠るのかもしれなかった。だからどこかに宿木のような場所を見つけなければならない。真夜中の3時にいつも目覚めるのではなく、朝までずっと眠れるような場所。でもそういう場所は記憶の中にしかなかった。
波間をパドリングして浜辺を離れていく。いつか大きな波がやってきて、その波に乗る。風を切り裂いて、自然と一体になり、滑走する。空の青さと海の青さに挟まれて、風を切り裂く。その瞬間に人生がある。
父はよく、風と波を感じることだと言った。だから煙草を吸いながら、考え続ける。
父が残したその子どもとして。
波に乗った後で、夜明けがやってくる時間が好きだった。
いつか新しい波がやってきて、彼は再び波にのる。