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短編音楽小説#39 John Cage: 4’33” 

天使か悪魔か、ブッダかキリストか、私には分からなかった。何かが私の頭の中で囁いていた。それは24時間、365日、私が思ったことについて文句を言い、堕落の道に誘惑し、私を罵り、超越的な力を誇示しようとした。「あなたはただの人間であり、無能で愚かで何もできない。だから私たちの言うことを聞くべきだ。エゴを捨てなさい」声は絶え間なく続いた。

私は自分の運命を自分で決められると信じていたが、徐々に囁く声に意識が支配されているような気がしてきた。声に反抗しようとしても、それはやまなかった。むしろ反抗すればするほど、声は大きくなり、その数も増えていった。私の内に何人の人格がいるのだろうか?ただ美しいピアノの音を真似して弾いている時だけは、音だけが響いていた。頭の中の声たちは、美しいピアノの音には耳を傾けるようだった。

私は必然的にピアノを弾き続けた。それは周りから見れば狂気の行為に違いなかった。何しろ私は四六時中ピアノを弾き続けていたのだから。でも私は、なぜピアノを弾いているのかを説明しなかった。それは言葉で誰かに話しても仕方がないことだった。ピアノの音がすべてを消してくれた。ピアノを弾いていさえすれば、私の世界は静かだった。

最初のピアノの音は激しかった。誰かと争うような音だった。他の人を拒絶する音だった。自分の存在を証明する音だった。しかしピアノの演奏をやめると、声たちはそのピアノの音について文句を言った。

私は消音できる電子ピアノを購入し、イヤフォンをしてピアノを弾き続けた。作曲した曲は数え切れないほどあった。でも、ピアノの音は徐々に穏やかになっていった。そして、僕はその変化に気づいた。以前は、常に頭の中で声たちが騒がしく話し続けていたが、今では静かになっていた。ピアノを弾くことで、声たちがなくなったのだ。それは、自分自身を見つめ直すための時間を与えてくれた。声たちは、自分自身に向き合わないように僕を誘惑していたのだ。しかし、今ではその誘惑に負けることはない。

その後、私は大学に入学し、音楽理論を学び始めた。ピアノを弾くことで、自分自身の感情を表現する方法を見つけたのだ。そして、それを音楽理論の知識と組み合わせることで、より豊かで深い音楽を作ることができるようになった。

 私は静寂を楽しむようになった。世界に耳を澄ませると、いろんな音がした。子どもたちが遊んでいる声。自動車が通り過ぎていく音。毎朝、新聞が配達されるバイクの音。水道から流れ落ちる水滴の音。そして雨の音。雨の音は美しかった。

また、ピアノを通じて自分自身を表現することができるだけでなく、人々に感動を与えることができるということも気づいた。演奏会で自分の作曲した曲を披露すると、聴衆たちから感動の声が上がった。その瞬間、私は自分がやっていることが意味あることであると感じた。

今では、ピアノは僕にとって、ただの趣味以上のものになっている。音楽を通じて、自分自身を表現することができ、人々に感動を与えることができる。それは素晴らしい人生の一部になった。

 電話の音が携帯から響く。
 誰かが僕を呼ぶ声が聴こえる。私はその声をしばらく聴いていた。

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