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短編音楽小説#15 [spangle call lilli line:E]

儀式は、音楽とともにはじまる。
かつて祭壇だった場所には、歌姫がひとり。ふたりの従者が音楽を作り上げ、歌姫は音に魂をそわせるように最初の言葉を発す。そこは教会ではないし、そこはお寺ではない。しかし、音と言葉がひとつになる時、その隠されていた物語が、空間を行き交う時、人々の魂は交流し、喜びが溢れる。

特別な時は、いつもあらわれるわけではないし、いつも歌が響くわけではない。
それは特別な時、特別な場所で生まれる。

リズムは太古からの時の流れのように刻まれる。歌は、叡智を語る賢者のように囁かれる。あらゆるハーモニーが、観客のダンスを生み出す。空間に生まれた正しき交流は、やがて無限の高なりとなって、瞼の奥に、海を描き、光を描き、そして出会ってきた人々と交わした言葉をこれから出会う人々との愛を思い起こさせる。

すべての汚れた魂が、洗い流されていく。共鳴があらゆる人を静かに押し上げる。

ある会社員は、行き詰まっていたプロジェクトに向き合う覚悟ができる。ある少女は、ある少年に愛を告白しようと思う。別れた妻ともう一度やり直せると、世界中を彷徨っていた男は思う。亡くした友のことを思い出した僕は、彼の魂が音楽とともにあることを願う。

あらゆる人生、あらゆる物語、あらゆる困難、あらゆる苦悩。しかし、音楽が、人と人を結びつける。そして喜びをもう一度、取り戻せると信じさせるのだ。

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spangle call lilli lineの音楽と出会った時、それはかつて大学の音楽サークルで音楽をしていた僕にはひとつの夢のように響いた。友がいて、まだ愛にならない関係があって、その中で音を紡いだ。そういう思いは、遠い昔のことのように思っていたけれど今もどこかでは繰り返されている。そして、その夢を夢として守りながら、音楽を生み出し続けることが可能なのだと、彼らと彼女の紡ぐ音を聴いて思った。

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