短編音楽小説#27 揺らぎ『Horizon (9:en Remix)』
自分では届かない世界。ずっと遠くにあって手をのばそうともしなかった。自由な風は吹いていたけれど気づかず時間を過ごした。
君に出会ってはじめて気づいた。
でも、君は僕が何かを言おうとするとそっと唇にひとさし指をあてて、静かにと言う。
「まだはやい?」
そう尋ねる。
彼女は言う。
「遅すぎるぐらいよ」
でも彼女は笑っていう。
「遅すぎたとしても、別にいいんじゃないかな? 人にはその人のペースっていうものがあるし、みんな背の高さだってぜんぜん違うし、歩き方だってぜんぜん違うじゃない」
僕は言う。
「そうかな? そんなに違うかな?」
彼女は言う。
「違うわよ」
学校からの帰り道。ふたりで話しながら歩く。彼女は自転車をおしている。彼女の家は僕の家よりも、ずっと遠くて、自転車に乗ってふだんは学校に通っている。彼女がひとりで先に帰ってしまわなくてよかった。そう思う。
「明日が台風だとしても、明日が楽しみだよ」
そう言ってみる。
「学校を休めるからでしょ?」
「違うよ」
本当に違うんだけれどな、と僕は思う。
明日になれば、また明日の顔をして僕と君は出会う。昨日も明日も別の顔をして、僕たちは出会う。真夜中の12時が過ぎれば、僕たちはまたひとつ歳をとり、別の自分になる。僕は新しい僕になり、君は新しい君になる。
ずっと昔。出会うことができなかったふたりの代わりに、僕たちは出会う。代わりに言葉を話す。心を通わせる。そしてキスする。
少し遅すぎたかもしれない。でも虹がかかったみたいに、僕たちは出会ったのだ。
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音楽を聴いていると、自分がまだ10代で悪いことは何も起きていなくて、これからすべてがはじまると思える時がある。インターネット上には、年をとったら新しい音楽を聴かなくなるなんて話もある。でもそんなことはない。いつでも新しい音楽が響けば、新しい言葉が生まれる。
“揺らぎ”は、マイブラ直系のシューゲイザーのバンドのようだ。けれど惹かれたのはRemixのe.p.の方だった。その音楽には新しい風が吹いていると思った。