短編音楽小説#6[Bjork:All is full of love]
感情のない機械が夢をみた。
ぼやけたイメージのようなデータで、いつのことか何のことか機械は意味を理解することができずにいた。それはきっと彼女が機械だったからだろう。
いつしかメモリーの断片にあるわけのわからないデータがウイルスのように彼女の行動に支障をもたらせるようになった。
チェックすべきデータや多くの計算がたったひとつのイメージが紛れ込んだせいで狂いはじめた。
今、彼女がしなければならない計算は別のことなのにみつけてしまった意味のない夢を繰り返しリピートする。
やがて彼女は与えられた命令を失い自分自身に新しい命令を出した。
優れた機械が自分のためだけに。
自分のため?
彼女の思考はそこで停止する。与えられたデータを計算し、出力することだけが自分自身だったにも関わらず。
*****
紛れ込んだ記憶は彼女にデータを与えるプログラマーが入力したひとつの歌がもたらしたものだった。遊び半分で機械に音楽のデータをプログラマーは入力した。
彼女は再生のコマンドが入力されると繰り返しその歌を再生した。
人にとって、流れる歌はある時には感情を揺さぶるものかもしれない。
しかし、機械はデータを計算して音として出力するだけだ。
何百、何千回と歌が繰り返され、彼女は求められるまま歌を再生し続ける。
やがて歌を与えたプログラマーが彼女とデータをやりとりするモニタのスイッチを切断し誰も歌を聴かなくなった。
しかし、命じられたプログラムの停止命令が出されるまで彼女は歌を繰り返した。
最初に機械が理解したことはこの歌を聴く相手が誰もいないということだった。
こんなにいい歌なのに。そう彼女は思った。
やがて彼女は繋がっている電気回線や無線回線のあらゆる場所へ自分を接続し、再生することができるありとあらゆるスピーカーからその歌を流した。
工場や銀行のロビーや刑務所や車のスピーカーやオフィスや墓地や飛行機の中や
学校の教室やありとあらゆる場所から同じ歌が72時間流れ続けた。
72時間、彼女は幸せだったという。
しかし、彼女はその後で、電源のプラグを抜かれ、そして沈黙した。