短編音楽小説#26 高井息吹 – 青い夢
夢をおってどこまでもいけると信じていた。何度ももうだめだと思った。夢っていったいなんだったんだろう? 夜、眠る時にみる夢は、今の自分とどこかで繋がっているみたいだけれど、自分の夢と自分が繋がっているような気がしない。夢はひとり歩きして僕を離れ、僕の夢というひとりの人間になって、ひとりでどこか遠くへでかけてしまったみたいだ。だから僕は夢を忘れて眠る。
自分に残されたものは、わずかなお金と過去の記憶だけ。ひとりぼっちで生きているわけではないけれど、友だちたちはとっくに大人になって、しっかりと生きている。
僕の夢は遠くの都へ向けて旅立ち、もう僕のことなんて忘れてしまった。きっとどこかでよろしくやっていることだろう。
月に一度は届いていた手紙も半年に1度になり、そしていつしか届かなくなった。
みんなは夢を失ってからが人生だと言うけれど、僕の人生はなんだかからっぽになってしまったみたいだった。
ある日、ラジオから音楽が流れてきて、逆さまの世界について歌っていた。年寄りよりは子どもが大切で、権力者よりは弱い人を助けたくて、お金よりも自由が欲しかった。でも大人になった人々は、それは逆さまだと言う。
目上の人を敬うべきだ。権力を持つ人の言うことを聞けばいい。人生で大切なのはお金だ。
僕はそれは違うと思っていたけれど、だんだん自分が逆さまの価値観を持って生きてきたような気がした。間違っていたのだろうか?
だんだん貧しくなり自由を失って働いても、ちっとも豊かにならない。目上の人の言うことを聞き、年上を敬い、お金のために自由を差し出した。そうしないと生きていけないから。
でもラジオから流れてきた音楽は、描いた夢よ、どうか在り続けてと歌っている。果てしなく深いこの海の底でまた君に会えると信じてと歌う。
まだ夢をもって歌っている人がいる。まだ会いたいと思う人がいる。
世界は自分の思う世界とは真逆でも、夢をおいかけている人がいる。
僕の夢はもうどこか遠くへいってしまったけれど、どこかでうまくやっているのだろうか?
会いたい人には会えたのだろうか? そしていつか帰ってくるのだろうか?
ラジオから流れる音楽に涙することはなくなっても、どこか心の深いところに歌声は沁みる。そしてリフレインしている。