abejunichi@icloud.com

短編音楽小説#23 FKA twigs:Cellophane, Live at The Wallace Collection

美しい夜がおとずれる。すべて静けさはふたりのためにある。身体が溶け合い、心が深く繋がる。隔たりなく笑いあう。
試すような行為を愚かなことだと知っている。失うことが怖いぐらい、大切だから試していただけ。
心から願っていたのだ。信じあえることを。
希望があるから絶望がある。そう誰かが歌っていたけれど、そうだろう。失うかもしれないから、手にできないと思うから苦しみは生まれる。
信じること。信じられること。
そのあいだに薄いセロファンがあるだけだとしても。
それぞれ別の人間であることを知ることは愚かなこと? と彼女は聞く。そうかもしれないと僕は言う。
みえないところで繋がっている。繋がりを信じられる。何によってそれは決まるだろう?
深く救われる。そのことを伝えたいけれど。
愛と苦しみをこえてひとつになる。そのために生まれてきただろうし、そのために歌っているだろう。
美しい歌声が響いている。誰もが歌っている。
悲しみの歌を。喜びの歌を。
鳥は歌っている。
言葉の前に歌があっただろう。
意味の前に歌があり、心をあらわす。
僕たちが歌うのは歓喜の歌だろうか?
たとえ悲しい歌を歌い続けたとしても喜びがおとずれることを信じて。
振り子のように揺れる心が穏やかになっておとずれる静けさを。
心の中には歌が響いていて、あの頃の美しさを蘇らせてくれる。

***********************************

FKA twigsの歌詞にある”ふたりの愛”について考える。
いや本当に”ふたりの愛”なんだろうか?
愛から歌が生まれていたとしても、誰かひとりのための歌だろうか?

この人生は自分自身のためのものだろうか?
たとえ誰かのために生まれた歌でも僕は聴くことができる。
何度も頭の中にメロディが流れ、時にその歌にあわせて歌う。
これまでもそういうふうに聴いてきたし自分と深く溶けあっている。
美しい歌も悲しい歌も、心の中に深く沈みこみ、生まれ変わる。

そして僕は生まれ変わる。
誰かが歌った歌も、誰かが書いた言葉も教えてくれる。
深く溶けあい、やがて言葉が生まれる。
そういうふうに生まれてきたのだろうし、
そういうふうに生まれてくるだろう。

だから僕は生まれ変わる。

Back