短編音楽小説#79 The Album Leaf & Bat For Lashes -Near
よく写真を眺め返す癖がある。そこには、美しい影のシルエットだけが写っていて、いつ撮ったのかはもう思い出せない。
ただ、その影の輪郭が不思議なくらい鮮明に心に刻まれている。君の顔は写っていないはずなのに、そこに君がいる。
いったい、あのとき君はどんな表情をしていただろう? 考えても、答えは出ない。
けれど、その黒いシルエットはまるで無限の想像世界への扉のようで、見返すたびに僕の心を新しい場所へ連れていく。実際の君の姿を思い浮かべようとするのに、うまく思い出せないのも不思議だ。
それでも、君が近くにいるのを感じる。君が息づいているように思えるのだ。
しかも、その影はいつの間にか僕の影と重なり合い、二人がまるで一つの形になってしまったかのように思える。それがとても美しい。
黒の濃淡から、僕は幾重にも重なる記憶を呼び出す。あの頃の笑い声や涙、並んで歩いた道の景色。
君はよく言っていたよね。「たとえ離れていても、ちゃんと近くにいるって感じられるでしょ?」って。
今なら、その言葉の意味がわかる。僕には君の姿がはっきり見える。声も聞こえる。時々、歌っている君の気配がある。なぜか踊っているようにも感じる。それから、ときどきそっと触れる感覚さえある。
心の内側に、君は静かだ。そこから永遠に離れようとしない。
僕たちはずっとそばにいて、気持ちは重なり合ったままだ。確かな距離ではなく、もっと深い場所で通じ合っているような気がする。
僕たちにできることは、これからも美しい影を残すことだ。
影の奥深くにある君に近づき、その輪郭の内側で交わる想いを大切にすることだ。
君は本当に素敵だった。そして今も、その素敵さは少しも色あせていない。
だからこそ、僕はまたカメラを手にしてシャッターを切る。静かに瞬くフラッシュのあとには、新たな影のシルエットが生まれ、そして僕の心にはまた、君が増えていく。