短編音楽小説#77 On and FKA twigs present THE BODY IS ART | featuring Eusexua
初めて手を繋いだ時、どちらの手が汗ばんでいたのかはわからなかった。秋が終わろうとしていた。僕たちは無言のまま、少しだけ世界に溶け込んだようだった。彼女の心が開いていることを感じた。OKなんだと静かに思った。
木々の緑には黄色や赤が混じり合い、季節が変わるように、僕たちの関係も少しずつ変わっていく。手を繋ぐというささやかな行為が、ふたりの間に生まれた肯定の証だった。
神社の門をくぐり、祈りを捧げた。好きな人と一緒に神社を訪れるのは初めてだったが、自然に手を繋いでいた。その帰り道も、手は離れることがなかった。
もし、ただ手を繋いでいるだけで幸せを感じるのなら、この先にはどんな未来が待っているのだろう? 言葉なしに伝わる想いがあることをこのとき初めて知った。少なくとも彼女は僕を拒んでいないのだ。
「この後、海を眺めて、晩ごはんを一緒に食べられたらと思っているんだ」
車に乗り込む際、そう話した。たいしたデートプランではない。2回目のデートだから、神社を選んだことが正しかったのかもわからない。でも、自然に手を繋げたことがうれしかった。彼女の心の中まではわからないが、きっと僕と同じように、緊張と期待と不安が入り混じっているような気がした。
初めて会った時は、ただお酒を飲んだだけだった。不思議に話がかみ合って、素敵な人だと感じた。そして次の誘いも快くOKしてくれた。僕はこんなふうに自然と人と繋がることができた経験があまりない。でもこの人となら言葉が自然と溢れ出てくる。
いつか出会うかもしれない「誰か」のために、ずっと一人で働き続けていた。安定した収入がなければ、家庭を築くのは難しいだろうと考えていた。愛が何よりも大切だと思いながらも、現実的なことも無視できない。それが僕の生き方だった。仕事は辛かったし、好きでもない仕事を続けることの苦しさも知っていた。でも30代でようやく手にした定職で、経験を積むことは必要だと信じていた。
そんな時に出会ったのが彼女だった。お酒を飲みに行く約束をして、その笑顔に惹かれていた。
自然と、彼女と神社に行きたいと思った。でも、本当に好きな人となら神社へ行くデートでもいいかもしれない。
夕方が近づき、海辺に着く頃には夜になってしまうかもしれないと思った。でも、星空の下、彼女に伝えたいことがあるような気がしていた。
海辺に着いたとき、僕は静かに口を開いた。
「もし、君がよければ、こうして僕とまた一緒に過ごしてくれないかな?」
彼女は「はい」と言った。その瞬間も、手を繋いでいた。星々は海の向こうから僕たちを見守ってくれているようだった。
つないだ手の感触を頼りに、ふたりの距離を少しずつ縮めていけたら。そんな願いを心に抱いた。