短編音楽小説#76 Mondo Grosso feat. UA 光
僕たちは駆けまわる双子のようにお互いを追い続けていた。影はどこまでも長く伸び、今にも掴めそうだった。しかし君の実体は遥か遠くに存在する。僕は届きそうな距離と、届かない現実との狭間に立ち尽くしていた。きっと君は、地平線の果てに沈む夕日の片隅で、光の中に身を隠しているのだろう。僕には君の影しか掴めない。
何度手を伸ばしただろう。どうか、今度こそ。しかし、君はするりと逃げ、光のほうへと遠ざかっていく。僕はその場に取り残された。君は太陽のように自ら輝き、僕はその光を反射する月のような存在に過ぎなかった。君に伝えたかったのは、その輝きがどれほど美しいかということだ。けれどその言葉は喉の奥で絡まり、闇に飲み込まれたままだった。
追いかけることに夢中で、地球が回転していることさえ忘れていた。僕はただ、君に届くことだけを求めていた。けれど理解できた。僕がどれだけ必死に走っても、世界は変わらず回り続け、君は手の届かない場所にあり続ける。闇の中に光は存在しない。そして僕も、ただ追い続けるだけではこの闇から抜け出せない。
だから、僕は思い切って立ち止まることにした。動きを止め、君が巡り来るのを待つと決めた。静止することは思った以上に難しかった。時間はまるで永遠のようにゆっくりと流れ、焦燥に駆られる心を何度も押し殺した。それでも、いつか君がひとめぐりして戻ってくると信じて光の側に身を置いた。
待つ時間の間、君の歌だけが心を慰めてくれた。僕たちはかつてひとつだった。けれど、どこかで引き裂かれてしまった。ひとりでいるとき、音楽は心の奥へ響いた。それはまるで、君が僕の傍にいると錯覚させるようだった。
「選べるのなら、今度は光を選びなさい」。母の言葉が心によみがえった。僕も君がいる方へ向かいたい。君の声が響く場所を選びたい。
そして、ついに君はやってきた。それは、人生のひと巡り、あるいはふた巡りもの時間が過ぎた後のことだった。その長い旅路の末に、君が再び僕の前にあらわれた時、僕はただ静かに喜びを感じた。
「今度は、君とともにいる方を選ぶよ」
僕は心の中で君に告げた。