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短編音楽小説#74 Folklore / clammbon(クラムボン)

あと少しで君に近づける気がした。もう少しだけ何かが足りなかった。

僕は心を開いていたし、リラックスして冗談も言えた。君の笑い声が、僕にとってどれほどの救いだったか、君には伝わっているだろうか。

台風の夜には、LINEでずっとチャットしていたよね? あの夜は素敵だった。外の嵐とは対照的に、僕たちの間には穏やかな風が吹いていた。

もしできることなら、このまま世界がとまってしまって、君の言葉の渦にずっと巻き込まれていたかったよ。君のひと言ひと言が、僕の心に優しく触れるたび、日常の煩わしさが消えていくようで、僕はその瞬間にすべてを賭けてもいいと思ったんだ。

あと少しで。あと少しで。

届くような気がした。

僕の気持ちをわかってくれるかな?

恋の達人の友だちは、直接思いを伝えるのではなく、雰囲気をみるんだと僕にアドバイスした。そいつは高校生なのに、もう女性とつきあったことが何人もあるらしい。それはどうかと思うけれど、そいつが言っていたことも一理あった。

何をどうすればいいか僕には経験がなかったけれど、何かを伝えるにはタイミングが大切なんだ。言葉を重ねることで、心を重ねていく。言葉は暗闇の中で君を照らすサーチライトみたいなもので、僕は君の心をちゃんとみつけようと思う。

君が話してくれたことには、君自身の言葉だけれど、まだ君自身が隠されている。僕の知らない君の一面がまだたくさんあるんだろう。僕はそれを、焦らずに見つけていきたいと思ってる。人は誰もが何かを隠しているもので、年頃の異性の友だちになにもかも話すことなんてない。

でも、台風の夜は過ぎてしまったし、僕が真夜中に君にLINEを送ることもない。台風の時は、心配して、大丈夫か?なんていうところから話せたのに。それはきっと僕の本心で、だから君も話してくれた。

美しい、美しい夜で、僕たちはネット越しには繋がっている。けれどまだそれは予感のようなもので、次の兆しがわからない。

ああ、神様。どうか彼女のことがわかるなら、僕にだけそっと教えて欲しい。いつか彼女が僕の彼女になってくれたなら、大切にするよ。

暗闇を照らす光になって、君の寝顔を見守るよ。僕が彼女の隣にいることが、彼女にとっての安心になれるように。

それには、時間か、距離か、年齢か、何かが足りなくてあと少しなんだ。

祝福の鐘が鳴るまでは。

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